試験研究の成果

赤色LEDランプを用いた露地電照栽培に適する夏秋ギク品種

分  野
野菜
品  目
イチゴ
技術概要
 夏秋期の露地ギク栽培は、天候等に左右され需要期への計画的な出荷が困難となることが多くなっています。
 8月盆及び9月彼岸の需要期に向けた露地ギクの計画生産・出荷のため、民間種苗会社育成のキク類品種の中から、耐候性赤色LEDランプを用いた露地電照栽培が可能で、切り花品質に優れ、高温耐性を有する品種を「普及に移す技術第96号」に追加して選抜しました。

  1. 8月盆出荷作型において、小ギク「精しはく」、「精なつか」、スプレーギク「マキシム」、輪ギク「精の奏」の4品種は、耐候性赤色LEDランプを用いた露地電照栽培が可能で、切り花品質に優れ、高温耐性を有する品種です(図1、表1、表2)。

  2. 9月彼岸出荷作型において、スプレーギク「シューフェアリー」、「シューオレンジフェアリー」、輪ギク「花鏡」、「寄のだるま」、「精の奏」の5品種は、耐候性赤色LEDランプを用いた露地電照栽培が可能で、切り花品質に優れ、高温耐性を有する品種です(図1、表1、表2)。

     図1 選抜した品種の花姿

     表1 選抜したキク類の電照栽培適性、切り花品質及び高温耐性(令和3年、令和5年)
    分類 花色 品種 自然日長下での
    開花盛期z
    開花抑制効果
    10%発蕾日y
    切り花品質x 高温耐性w
    開花遅延日数 高温処理時
    花房形
    R3年 R5年 R3年 R5年 R3年 R5年 R3年 R5年 R3年 R5年
    (8月盆出荷作型)
    小ギク 白系 精しはく 7/27 7/24 21
    黄系 精なつか 7/31 7/31 16 BCA
    スプレーギク 黄系 マキシムく 7/19 7/14 18
    輪ギク 黄系 精の奏 7/13 未発蕾 21
    電照効果基準品種 赤系 精ちぐさく 7/26 7/5
    白系 岩の白扇 7/28 7/31
    高温耐性基準品種 白系 精しずえく 24 22
    (9月彼岸出荷作型)
    スプレーギク 赤系 シューフェアリー 8/27 8/25 18
    赤系 シューオレンジフェアリー 8/27 8/25 11
    輪ギク 赤系 花鏡 7/18 8/15 22
    黄系 寄のだるま 8/20 8/25 18 17
    黄系 精の奏 8/18 未発蕾 21
    電照効果基準品種 黄系 精こまき 8/25 9/6
    白系 岩の白扇 8/23 8/10
    高温耐性基準品種 白系 精しずえく 24 22
    z 8月盆出荷作型では自然日長下での開花盛期が7/31まで、9月彼岸出荷作型では自然日長下での開花盛期が9/10までとし、それぞれ発蕾が基準品種と同じかまたは遅いものを選抜した。
    y 耐候性赤色電球形LEDランプ(NAG10A8R5、(株)エルム、8W)を高さ1,5m、2.0m間隔に設置し、定植から調査終了(8月盆出荷作型は8/15、9月彼岸出荷作型は9/26)まで電照した。
    x 小ギクは切り花長80cm以上で花房形が乱形を示さないもの、スプレーギクは切り花長80cm以上で、花房形が凹型や乱形を示さないもの、輪ギクは切り花長90cm以上を選抜した。
    w 開花遅延日数(高温処理区と無処理区の到花日数の差)が基準品種の開花遅延日数以下で、貫生花が発生しないもの、高温処理区の花房形が、小ギクはD(乱形)を示さないもの、スプレーギクはC(凹形)やD(乱形)を示さないものを選抜した。

     表2 選抜した品種の到花日数と切り花品質(令和3年)
    分類 花色 品種 年次 到花日数z
    (日)
    切花長
    (cm)
    切花重
    (g)
    葉数
    (枚)
    茎径y
    (mm)
    花首長
    (cm)
    花房形x
    (8月盆出荷作型)
    小ギク 白系 精しはく 令和5年 52 98 36 45 4.8 3.8
    黄系 精なつか 57 84 35 50 5.0 2.5 AB
    スプレーギク 黄系 マキシム 50 95 41 28 4.4 5.4
    輪ギク 黄系 精の奏 令和3年 57 92 61 34 7.0 1.8
    (9月彼岸出荷作型)
    スプレーギク 赤系 シューフェアリーく 令和3年 46 89 61 36 5.5 7.3
    赤系 シューオレンジフェアリー 46 92 73 35 6.8 6.5
    輪ギク 赤系 花鏡 令和5年 42 90 78 49 6.9 2.5
    黄系 寄のだるま 令和3年 45 93 85 43 6.6 1.5
    黄系 精の奏 46 91 58 40 6.9 1.6
    z 消灯日(8月盆出荷作型は令和3年は6/10、令和5年は6/9、9月彼岸出荷作型は令和3年は7/30、令和5年は8/2)から開花盛期までとした。
    y 切り花頂端より1/2下がった位置の長径。
    x 円錐形または円筒形(頂花下りも含めた)をA、平形をB、凹形をC、乱形(やなぎ芽)をDとし、個体数の多い順に表した。

※利用上の留意点
  1. 宮城県名取市での結果であり、到花日数は地域によって異なります。

  2. 選抜の基準は表3のとおりで、耕種概要は表4のとおりです。

     表3 電照栽培に適し、切り花品種に優れ、高温耐性を有する品種の評価基準
    評価項目 評価基準
    1.自然日長下での開花盛期 8月盆出荷作型では7/31、9月彼岸出荷作型では9/10までとなるもの
    2.電照による開花抑制効果
    ○小ギク、スプレーギク:暗期中断下での10%発蕾日が電照効果基準とした8月盆出荷作型「精ちぐさ」、9月彼岸出荷作型「精こまき」と同じかまたは遅いもの
    ○輪ギク:暗期中断下での10%発蕾日が電照効果基準とした「岩の白扇」と同じかまたは遅いもの
    3.切り花品質 ○小ギク   :切り花長80cm以上で花房形が乱形を示さないもの
    ○スプレーギク:切り花長80cm以上で花房形が凹形や乱形を示さないもの
    ○輪ギク   :切り花長90cm以上で貫生花とならないもの
    4.高温耐性 開花遅延日数(消灯後25℃加温35℃換気のハウス内で栽培した高温処理区と露地栽培の無処理区の到花日数の差)が基準品種の開花遅延日数以下で、高温処理区の花房形が、小ギクは乱形を示さないもの、スプレーギクは凹形や乱形を示さないもの、輪ギクは貫生花とならないもの

     表4 耕種概要
    作型 分類 年次 挿し芽 定植 摘心 仕立て本数 電照時間 消灯日
    8月盆出荷 小ギク 令和3年
    令和5年 4/7 4/25 5/1 3本 22:00~4:00 6/9
    スプレーギク 令和3年 4/13 5/6 5/10 3本 23:00~5:00 6/10
    令和5年 4/17 5/1 5/9 3本 22:00~4:00 6/9
    輪ギク 令和3年 4/8 4/28 4/30 2本 23:00~5:00 6/10
    令和5年 4/7 4/25 5/1 2本 22:00~4:00 6/9
    9月彼岸出荷 小ギク 令和3年
    令和5年 5/15 6/1 6/8 3本 22:00~4:00 8/2
    スプレーギク 令和3年 5/27 6/17 6/28 3本 23:00~5:00 7/30
    令和5年 5/27 6/17 6/25 3本 22:00~4:00 8/2
    輪ギク 令和3年 5/17 6/2 6/11 2本 23:00~5:00 7/30
    令和5年 5/15 6/1 6/8 2本 22:00~4:00 8/2
    定植は株間15cm×条間15cm、5条ネットの中1条抜き4条植えとした。
    基肥として窒素成分量1.5kg/aを施用した。
    電照は赤色LEDランプ(NAG10CSR5-62E26、(株)エルム、7W)を高さ1.5~1.8m、3m間隔に設置した。

  3. 高温耐性の試験は、消灯後から開花まで加温開始温度25℃、換気開始温度35℃の高温条件に設定して管理しました。また、本試験は森ら(2019)が営利生産上問題となりにくい水準の高温開花性があるとした「精しずえ」を基準品種としたものです。

  4. 「精の奏」については、8月盆出荷作型と9月彼岸出荷作型で赤色LEDランプを用いた電照栽培適性があることから、8月~9月の需要期連続出荷が可能です。
関連情報
担当部署
農業・園芸総合研究所 花き・果樹部(電話:022-383-8136)

 宮城県農業・園芸総合研究所
  (企画調整部 企画調整チーム)
  〒981-1243 宮城県名取市高舘川上字東金剛寺1
  TEL:022-383-8118
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