試験研究の成果

【産業廃棄物税基金充当事業】
メタン発酵消化液の作物栽培への利用

分  野
水稲、野菜
品  目
水稲、ホウレンソウ、エダマメ、ブロッコリー、チンゲンサイ、ツボミナ、ダイコン、ユキナ
技術概要
 宮城県内に食品廃棄物等を原料とするメタン発酵施設(仙台市泉区)が稼働していますが、そこで副産物として発生するメタン発酵消化液(以下「消化液」という)については、凝集剤を用いた処理により汚泥と処理水に分離後、処理水は放水している状況にあり、農地へ利用されていない現状にありました。
 そのため、平成28年度から古川農業試験場では、有機性資源の有効利用の観点に加え、水稲栽培における施肥コスト低減や追肥労力軽減手段の一つとして、消化液の活用を検討してきました。
 一方、南三陸町では町で策定したバイオマス推進構想に基づき、町内で発生する食品廃棄物をメタン発酵し、消化液を町内農地で利用する取組を進めています。メタン発酵施設は平成27年に稼働し、消化液産生量も徐々に増加していることから、農地での利用拡大が急務となっています。
 さらに、令和4年度には仙台市宮城野区で新たな施設が稼働開始となりました。
 そこで、上記施設で産生される消化液について、これまでの水稲に加え、園芸作物での活用方法を検討しました。

水稲栽培への利用
 肥料としての水稲栽培への利用について検討したところ、施用量の目安や施肥する際の留意点が明らかとなりました。

  1. 水稲栽培において、消化液を化学肥料の代替として基肥及び追肥に利用することができます。

     図1 メタン発酵消化液の肥料効果(平成28~令和4年度)


  2. 消化液を基肥とする場合には、液肥散布車(自走式散布機)等により代かき前に全面散布します。

     図2 液肥散布車を用いた基肥としてのメタン発酵消化液の散布方法


  3. 消化液を追肥する場合には、ローリータンク等を用いて水口流入施用します。

     図3 タンクローリーを用いたメタン発酵消化液の水口流入施用法


  4. 県内2施設で生産される消化液の窒素成分量は、全窒素(T-N)0.2%、アンモニア態窒素(NH-N)0.15%程度であり、8週湛水保温培養しても有機態窒素は無機化されないため、消化液を肥料とする場合の窒素施用量は、アンモニア態窒素量で判断します。

※利用上の留意点
  1. 消化液は、リン酸(P)及びカリ(KO)の成分量がアンモニア態窒素に比べて少ないので、別途化学肥料や堆肥を施用して補充するか、リン酸及びカリの減肥基準(普及に移す技術第90号参考資料)に従って減肥の判断を行う必要があります。
  2. 消化液の施用後に大雨が予想される場合には、降雨による流亡を防ぐため、基肥、追肥に関わらず施用を見合わせてください。

野菜畑における基肥としての利用
 主に露地野菜畑を対象として、消化液の肥効や、基肥として使用する場合の適切な施用量について明らかにしました。

  1. 野菜畑における基肥として、メタン発酵消化液を土壌表面に施用する場合の施用量は5t/10aを上限とし、消化液中のアンモニア態窒素濃度に基づき窒素施肥量を算出します。

  2. 施用量を5t/10aとした場合のアンモニア態窒素量が品目ごとの標準的な窒素施肥量を上回る場合は、消化液施用量を減らし、逆に、標準施肥量を下回る場合は、不足分を化学肥料などで補充することで、慣行と同程度の収量や形質が確保できます。

     図4 消化液施用量の計算例とエダマメの収量



※利用上の留意点
  1. 消化液の散布は、ジョーロあるいは汚水用水中ポンプを介したホースなどを用いて土壌表面に行います。なお、南三陸町施設の消化液は、町内に限り有償で散布作業の委託が可能となっています。

     ジョーロでの散布(先端のハス口は目詰まりするので外している。)        南三陸町での専用作業機を用いた散布状況。
     図5 消化液の散布作業
  2. 消化液のアンモニア態窒素濃度は採取時期による変動が見られるため、施設から提供される情報を確認してください。なお、簡易に測定できる電気伝導度(EC)からも概ね推定可能です。また、肥料成分のうち窒素に比べてリン、カリウム濃度が低いので、標準施肥量に対して不足するリン、カリウムをようりんや硫酸カリなどの単肥で施用します。
  3. 消化液施用量が5t/10aを超えると施用範囲外への消化液の漏出が多くなり、ほ場内に液溜まりが生じて耕起作業に支障が出る場合もあることから5t/10aを上限としました。また、消化液は他の成分と比較しナトリウムが多い傾向があり、5t/10a以内の施用でも施設土壌では土壌表層への蓄積が懸念されるため、露地野菜畑を主とした施用が望ましいです。
  4. 消化液施用後、できるだけ時間を空けずに耕起することが望ましいですが、5t/10a以内の施用で1週間以内に耕起すれば減収するリスクは小さいと考えられます。ただし、急傾斜のほ場や、豪雨が予想される場合は早めに耕起してください。また、消化液の長期保管中にアンモニア揮散により窒素濃度が減少する場合があります。

消化液の入手
  1. 消化液は、普通肥料として登録、又は特殊肥料として届出されているものを使用してください。
  2. 仙台市泉区および南三陸町の2施設から無償または1リットル当たり1円程度(令和5年2月現在、要相談)で入手可能であり、ローリータンクなどを施設に持参して入手できます。なお、運搬依頼も可能ですが、移動距離に応じた運搬料(要相談)が必要となるため、施設近隣での利用が現実的です。
  3. なお、南三陸町の施設では、南三陸町内を対象として消化液も含めて低価格で液肥散布車による散布を行っています。
     ●メタン発酵施設運営業者
    消化液 肥料名称 施設運営者 所在地 問い合わせ先
    有次郎 (株)ジェイネックス 仙台市泉区明通二丁目80番 TEL.022-779-5515
    南三陸液肥 アミタサーキュラー(株) 南三陸町志津川字下保呂毛14番1号 TEL.0226-47-4055
    ※Aは特殊肥料、Bは普通肥料として肥料登録済み。消化液を入手する場合は、事前に問い合わせが必要。
関連情報
担当部署
古川農業試験場    作物環境部(電話:0229-26-5107)
農業・園芸総合研究所 園芸環境部(電話:022-383-8133)

 宮城県農業・園芸総合研究所
  (企画調整部 企画調整チーム)
  〒981-1243 宮城県名取市高舘川上字東金剛寺1
  TEL:022-383-8118
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